【伝えるから伝わるへ】④うまく言えない気持ちに寄り添うエッセイ

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自分の言葉を
これまでいろいろとテクニックを学んできたが、俺の言葉はまだ拙い気がするんだ。

そう感じるのは、それだけ真剣に「伝えたい」と思っているからだと思います。

そうだろうか?
なんだか下手なだけな気がしてきてな。

伝え方を学んできた弊害かもしれませんね。
確かに、伝わりやすい技術はあります。でも言葉が伝わるのって、それだけではないと思うんです。
話している内容に、その人が確信を持っているか、情熱があるか、内から出てきた言葉なのか……。
そんな技術ではない部分も大事です。

テクニック部分では補えないところ、か。

はい。今回ご紹介する本は、まさにそんな「自分の言葉」と向き合うヒントを教えてくれる一冊です。
辻村深月さんのエッセイ『あなたの言葉を』。
きっと気持ちが少し軽くなりますよ。

かつて子どもだった大人たち
『あなたの言葉を』は、著者が「毎日小学生新聞」にて2020年4月5日から2024年1月7日まで連載したコラムを中心にまとめたものです。
このコラムは、新型コロナで学校生活が制限されていた時期に始まりました。
「言葉にできない悩みや葛藤を抱える子どもたちに、隣に寄り添うようなメッセージを届けたい」という想いがこめられた文章は、
小学生を主な読者対象にしつつ、その言葉は「かつて子どもだった大人」も優しく包み込んでくれます。
紹介する本:『あなたの言葉を』
『あなたの言葉を』辻村深月著, 毎日新聞, 2024
著者:辻村深月(つじむら みづき)さん
2004年に『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、作家デビューを果たした小説家。
ミステリーや青春小説を中心に、鋭い心理描写と温かい人間観察で幅広い世代から支持を集めています。
こんな人におすすめ
- 自分の気持ちを言葉にするのが苦手だと感じている人
- 子どもの頃に「言葉にできなかった思い」が心に残っている人
- 日常で感じたことをうまく表現できずに悩んでいる人
言葉にすること
本書の「はじめに」に書かれた辻村さんの言葉に胸を打たれたため、そのまま紹介させていただきます。
私は自分自身が「子ども」だった時は、それらの気持ちを感じてはいても、言葉にすることの方はうまくできませんでした。友達とうまくいかなかった時、大人に叱られた時、「おかしい」と思ったけど口に出せなかった時、それがどうしてなのか、その時はよくわからなかったのです。
(中略)
その時に感じていた感情を何度も何度も心のなかで整理するうちに、それらを表現する「わたしの言葉」を見つけていくことができました。誰かに言われたから──、きっとそういうものだから──ではない、何にも流されない私自身の言葉です。そしてその言葉は今、大人の私を支えてくれる頼もしい武器になりました。
書くことを仕事にしている方でも、子どもの頃は言葉にできなくて悩んでいた──その姿に、少し安心します。
大人になった今も、自分の気持ちを「うまく言葉にできない」と感じることはあります。
けれど大切なのは、焦って言葉にすることではなく、感じた気持ちを丁寧に受け止め続けること。
うまく言えない気持ちを、すぐに言葉にしなくても大丈夫。
自分の心の中でゆっくり整理していくことで、やがて「自分の言葉」が見つかるんだと知ると、肩の力がふっと抜けました。
不器用に見えても、それがその人の大切な歩み。
そんな歩みも「自分の言葉」を育てる一部なんだと、やさしく背中を押してもらえた気がしました。
まずは自分の気持ちを受け止めることが大事なんだな。

焦って言葉にするより、丁寧に向き合うこと。
そうしていたら、いつか自分を支えてくれる「わたしの言葉」になるんでしょうね。

飲み込んだ言葉の行方
本書には、辻村さんの代表作『かがみの孤城』のワンシーンが登場するコラム「雨の匂い」が収録されています。
小学校で「雨の匂いがする」とつぶやいた主人公・こころ。
しかし、その素直な言葉をクラスメートにからかわれ、心を閉ざしてしまう場面が描かれています。
『雨を好きでも、いいのかもしれない。
だけど、学校というところは、そんな正直なことを言ってはいけない場所だったのだと、こころは、絶望的に、気づいた』
──この一節に、自分自身の記憶が重なりました。
「笑われるかもしれない」「バカにされるかもしれない」
そう思って、たくさんの言葉を胸の奥で飲み込んできたこと。
辻村さんは、そんなとき「無理に口にしなくてもいい」と教えてくれます。
代わりに、ノートに書いてみればいい。
飲み込んだ「自分の言葉」の成長を止めずに、考えることや思うことにブレーキをかけなくてもいいんだ、と背中を押してくれます。
俺も、言えずに心にしまった言葉がたくさんあったな…。

はい。声に出せなくても大丈夫。書きとめておくだけで、自分の中の言葉は生き続けてくれますよ。

読書感想文の疑問
夏休みといえば宿題。その中でも多くの人が苦労したのが「読書感想文」ではないでしょうか。
実は、本が大好きで文章を書くのも得意だった辻村さんも、「楽しい」と思ったことは一度もなかったそうです。
「読書感想文って必要なんだろうか?」
そんな疑問を、あるとき学級日誌に書いてみました。
『意見ありがとう。でも、私はそう思いません。読書感想文は必要だと思います。宿題としてであっても、それをきっかけに、一年に一冊しか本を読まない子が確実にその一冊を読むこと。その本を通じて文章を書くことには意味があります』
先生から返ってきた言葉は、ただの正解ではなく「信念」そのもの。
辻村さんは震えるような感動を覚えたといいます。
私が心を動かされたのは、先生の答えそのものというより「問うこと」「応えること」の素晴らしさでした。
「読書感想文ってなんのためにあるんだろう?」
そんな疑問を抱いたことはあっても、私は誰かに尋ねたことはありませんでした。
けれど、もしあのとき口にしていたら、先生のように、何かしら答えを返してくれる人がきっといたはず。
口にしないのも自由。
でも、勇気を出して言葉にすれば、何かが変わるかもしれない。
そう思うと、「問うこと」自体がとてもおもしろい行動に見えてきます。
疑問を抱くこと、そして口にすること自体に意味があるんだな。

答えそのものよりも、「聞いてみた」「応えてくれた」という経験が、その人の言葉を育ててくれるのかもしれません。

おわりに
思ったこと、感じたこと。
それらと大切に向き合うことで「自分の言葉」が育っていくんだな。

伝わるためには技術も必要だと思います。
ですが、何を伝えたいかは、自分と向き合うことで生まれてくるのではないでしょうか。

なるほどな。
まずは子どもの頃の「口に出せなかった言葉探し」でもするとしようか!

ふふ、いいですね。
子どもの頃のピオさんが、どんなことを思っていたか気になります。

うむ! 思い出したら伝えよう!
ポンヌくんの言葉も教えてくれ!

はい。 あの頃できなかった問いかけに、ピオさんだったらどう応えてくれるでしょうか…?

あなたの言葉を
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
『あなたの言葉を』は、子どもに向けて書かれた連載コラムをまとめた一冊ですが、そのまなざしは「かつて子どもだった大人」にもそっと届きます。
「うまく言葉にできなかった気持ちも、大切にしていい」
「問いを口にすることで、新しい景色がひらける」
辻村深月さんの言葉は、そんな小さな気づきをやさしく手渡してくれました。
そして、本の中にはここで紹介しきれなかった、たくさんの“言葉への優しいまなざし”が詰まっています。
気になった方は、ぜひ本を手にとって、あなた自身の心に響く「言葉」を探してみてください。
必要な本に出会うことで、
あなたの人生が、もっとぽかぽかに温まりますように!

次回予告:まとめ座談会
ピオ、ポンヌ、そして仲間たちで“伝えるから伝わるへ”特集を振り返る座談会をお届けします。
▷8月31日(日)9時公開予定
参考文献
『あなたの言葉を』辻村深月著, 毎日新聞, 2024